アリ植物専門の農場を作った理由

久々の投稿ですみません…。
農場の立ち上げ、やっぱりすごく大変で、毎日休みなく仕事しておりますがそれでも間に合わないぐらいで…。

しかし色々な人に助けてもらいながらなんとかやっておりますのでとりあえずご安心ください。

さて、最近やっと、農場立ち上げの活動などもあって、アリ植物が以前より多くの人に認知されるようになり、実際に育ててみたいと購入されることも多くなったように感じます。
それに伴い、販売の方も当農園以外のお店でも、比較的珍しいアリ植物を取り扱い販売しているところを多く見かけます。
こうした動きは嬉しいことではあるのですが、一点とても気がかりなことがあります。

それは現地株( 野生株,山取り株,現地球 etc… 以下 現地株 )の販売です。
現地株について、自然がどうとかそういう話はまた別の機会に話すとして( 現在も考えを持っています )、ここではアリ植物の現地株がどういったものなのかをお話しします。

農場を立ち上げた経緯

え?なんで経緯?と思うかもしれませんが、そもそも私が伊藤蟻植物農園を立ち上げた理由が現地株の栽培の難しさからです。
アリ植物の現地株と言っても、主に手に入るのはアリダマとアリノスシダです。
私がアリ植物を初めて知ったのは11年前ぐらい。当時は全くと言って良いほど売っていなくて、海外サイトで販売してるのを見つけ、翌年個人輸入して購入したのが最初でした。
栽培情報もほとんどなく、海外の掲示板か、当時国内で唯一と言っていいほどマニアックなアリ植物を販売していた方などのブログでした。
それでも何が正しいのかみんな手探り状態という感じで、正しいと思われる方法はよくわかりませんでした。

そして、全く流通がないので、珍しいものと言ったら大体が現地株になるのです。
アリ植物の魅力にハマり、もうとにかく手に入れて育ててみたいと次から次へと買いましたが、次から次へと枯れました…。どういった性質のものかもわからないし、滅多に手に入るものでもないので、一体何で失敗したのかもよくわかりませんでした。
一つ一つが絶対に枯らしてはいけない貴重な株で、試す、なんてことは出来なかったんですね。
そんなこんなで、ちょうど今ぐらいでアリ植物を栽培し始めて10年が経つのですが、当初3年ぐらいの株は、栽培品も現地株も一つも残っていません。
一番古くて7年前の自分で撒いた実生株です。現地株に関しては、この10年で本当に多くの株を購入し、多くのお金を使いましたが、残っている株は数えるほどです。
ここで勘違いして欲しくないのは、販売業者は経験から比較的これなら育つ可能性が高いだろうという株を販売していたことと、私が業者として仕入れたり採取したりした株ではなく、純粋に趣味家として購入した株を、大事に丁寧に管理、栽培してほとんど残らなかったということです。

…でも結局、それって管理が下手だっただけじゃないの?
と思うかもしれません。しかし、これは趣味家である私だけではなく、採取して来た人も、プロの生産者も、腕のある趣味家も一様に「アリ植物は腐る」という認識となっていました。
疲弊しやめてしまった人もたくさんいると思います。


しかし、いくら腐るからと言っても、なんとかして育てたいと強く思い、とにかく試せることはなんでも試したし、数少ないアリ植物趣味家に話を聞いたりして絶やさないように努力しました。
増殖方法や養生の仕方を独学ながら学んでいき、その結果、アリノスシダはある程度問題なく養生できるようになり、アリダマは実生株は現地株と違い圧倒的に育てやすく、腐りにくいことや、現地株でも活着して根が発達していれば比較的栽培がしやすいことに気付きました。
それからは、活着株は何がなんでも購入し、未養生アリダマ現地株はまず枯れて当たり前のものだと認識し、大きめの株で種子が取れそうな株を、その種子目当てに購入するようになりました。その種子から育った株が、今も育っています。


その後、私が独立する2、3年前ぐらいから、オランダから大量の数種のアリダマ実生株が輸入され、ホームセンターや園芸店でお手頃な価格で手に入るようになりました。
SNSやネット記事などでアリ植物の情報が発信され始めたことも重なり、この頃からアリ植物の認知度が広まってきたと感じました。
しかしこの輸入苗、別にアリ植物専門の農場があるわけでもなく、観葉植物の農場が商品として一時的に生産されただけに過ぎず、しばらくしたら生産をやめるという話を聞きました。

折角ある程度広まったアリ植物をここで一般市場から消えてしまうのは勿体無いという思いと、こんなにも面白い魅力に溢れた植物をもっとたくさんの人に知って育ててもらいたいという思い、そして今まで曲がりなりにも培ってきた技術と知識で、アリ植物を園芸の一ジャンルとして確立させたいという思い、そして何より、自分が失敗してきた数々の経験を興味を持ってもらった人に繰り返して欲しくないという思いから、国内で生産流通させる農場を作りたいと、「伊藤蟻植物農園」をつくることに決めました。

私は趣味家として誰よりも多くのアリ植物を購入し育てた経験があると思っていますし、業者としても誰よりも多くのことを試し実践してきた経験があると思っています。
栽培環境は部屋、ベランダ、地下室、温室。最終的に数千万資金調達し、最新機器をなるべく導入した温室を建てて膨大な数のアリ植物を触って育ててわかったことは、やはりアリダマの現地株の養生は難しすぎるということです。


栽培技術、経験をある程度積んだ今でも痛感します。
「こんなもの広がるわけがないし続くはずがない…。」
来る日も来る日もアリダマ現地株をチェックして腐った株を捨て、輸入の度にたくさんの傷んだアリ植物を見る日々。大好きな植物が腐り、枯れてしまうのは今でも全く慣れません。毎日毎日ストレスです。
でも、お客さんの元で枯れるはずだった株がここで枯れて良かったなと安心もします。
現在も膨大な数の傷んだ養生中のアリ植物現地株が農場にあります。

趣味の延長で植物を販売していた時期や、独立した時などは余裕がなく、そうした不安のある品質のものを売っていた時がありました。
アリ植物を多く枯らした経験から、この辛い体験をなるべくならして欲しくないと思っていますし、これは私自身の性格なのですが、何か起こると自分が悪いと考えてしまう癖があるので、極力これなら安心して育てられるだろうと自分で納得した質の植物を販売したいという想いがあります。
輸入時は見た目が良く、このまま販売すれば利益になるような株もダメージが出切るまで養生しているので、農場立ち上げたばかりの現在では利益が少なく厳しいです。
ですが、なんとか資金が尽きないギリギリまでは自分がやろうとしたことを貫き守りたいと思っています。

農園でのアリ植物現地株の扱い方

ちなみに、当農園ではアリダマ現地株はもちろん販売用もあるのですが、多くが種取り用の親株としてか、植物園での展示用など、生産普及の為に栽培しているものです。
別にひとりで溜め込んで楽しんでいるとか、自慢しているとかそういうものではないんですよ…。大株なんていつ枯れるかもわからない爆弾みたいなものです。
私もアリ植物栽培経験はまだまだ浅く、播種から5年を越えるようなある程度見栄えのする実生株も少ないです。そのため現地株での紹介が多くなっています。正直、こういった現地株での紹介もあまり良くないことはわかっています。しかしどうか憧れないで欲しいです。
少なくともアリダマは種類にはよりますが比較的成長が早く、実生株でも適切な環境を作れば立派な大株にするのに何十年とかかることはありませんし、現地株と同様な姿に育てることが出来ます。
現地株に関しては価格も比較的高額に設定しております。その理由は労力というところもあるのですが、栽培が難しく不安定な為、始めたばかりの人が手を出しにくい価格にしてあるというのもあります。

懸念していること

ここからは懸念していることです。
現在アリ植物は普及種も少なく、そのほとんどが市場には流通していない珍しいものです。そういったものはどこかの農園で作っているわけでもないので、自然から採取してきたものが多いです。そして徐々に高まる需要と、インドネシアが海外に積極的に植物の輸出をしだしたことにより、現地から多くのアリ植物が輸入されるようになりました。
もちろん私も多くのアリ植物を輸入していますが、輸入したアリ植物をそのまま販売する業者も多くなりました。

既に腐っているような株や、育つ可能性が低い株など、はっきり言って良くない状態の植物が多いです。
これはどの植物でも同じだと思いますが、発根養生管理などよりも、現地での採取、管理、輸送方法によりその株が生きるか死ぬかがほぼ決まってしまいます。未養生の植物を販売するなら尚更、販売業者側でしっかり管理し判断しなければいけないと思います。
私が過去購入したきた国内の販売業者の方は自ら現地へ行き、採取し大切に持ち帰った株を販売しておりましたがそれでもアリ植物は難しかったのです。

現地株の未養生の植物には、問題なく育つ株ももちろんありますが、アリ植物に関しては違います。未養生でも最低限ある処理をするなどありますが、私が見る限りでは現在未養生の現地株を販売している業者はアリ植物の知識が全くない人です。植物の知識も少ないと思います。
今、アリ植物に興味を持って栽培してみたいと思った人たちは、何も分からず買うでしょう。私が経験してきた辛い思いをして欲しくないと立ち上げた農場なのに、このままではいけないと思ったので、アリ植物の中でも主にアリダマやアリノスシダの現地株の栽培に関して、現地で採取もしてきた自分なりの見解や注意することを、次回でも書いていきます。